魂の骨格 第10回 監督 荒川航×キャラクターデザイン 福地仁×商品担当 上田禎夫
2010-02-24 00:00 更新
ディズニー・ジャパンの3DCGアニメ作品『ファイアボール』の主人公であるドロッセルの"魂の骨格"を監督である荒川航氏、そしてキャラクターデザインを担当した福地仁氏のお2人に加え「超合金ファイアボール ドロッセル」を手がけた商品担当・上田にも語ってもらいました。
荒川氏にはドロッセルの開発コンセプト、福地氏にはデザインワーク、そして上田には商品開発について聞きました。ドロッセルの誕生、そして商品化に至るまでの経緯と共に、それぞれのこだわりが見えてきます。
【 ドロッセルの誕生 ~コンセプト~ 】
■ 福地氏の起用
CFやPV制作の経験の中で、CGデザイナーとの付き合いは多かったのですが、日本市場に向けてロボットをモチーフとした映像を制作するのであれば、例え最終的に3Dモデルに置き換えられるものであったとしても、最新の日本アニメで活躍されているメカデザイナーの起用は必須だと考えました。
そこで、私のよき友人であり、よき師である水島精二氏(『機動戦士ガンダム00』監督)に相談したところ、福地氏をご紹介いただけたのです。と、申しますか、東京は銀座シネパトスにほど近い焼肉屋にて、水島氏に一通り企画をご説明させていただき、「相応しいメカデザイナーいますか?」とたずねると、「いるよ」と隣のテーブルを指差したのでした。
その指先は、あたかも『未知との遭遇』で空を指さす人々のように確信に満ちておりましたので、福地氏以外の選択肢を検討することもありませんでした。
■ デザインコンセプト
より無機質なビジュアルに、より人間的な個性を与えることが、コメディとしての重要な命題だと考えておりましたので、静止画のみで性格表現が完結しているデザインというよりは、例えば『スター・ウォーズ』のドロイドたちのように、ルックスは幾分無愛想であっても、動き、喋ることではじめて暖かさを獲得するようなバランスでお願いしました。
ところが、幾度かのやり取りののち私の手元に届いたのは、工業製品のようでありながら、同時に女性的なラインをも獲得した驚くべきデザイン画だったのです。
なお、いわゆる"ツインテール"形状は私からのオファーでしたが、そのほか各種ユニットを、追加パーツではなく、髪パーツ丸ごとの置換で表現するというアイデアは、初期段階での福地氏との打ち合わせの中で決定したように記憶しております。
様々なヘアスタイルをガジェットで表現するという、私ひとりでは生まれなかったこのアイデアは、ご存知のとおり、その後のドロッセルを決定づける重要な要素となりました。
■ CGと立体化
設定画をもとに、実際の画面レイアウトでより有効に機能するシルエットを、CG監督である渡辺誠之氏とともに探ってゆきました。ロングショットの多い画面構成の中では、さらに大きな髪パーツと記号的な末広がりのシルエットが必要に思えたのです。
このロングショットをメインとした絵作りというのは、短編ゆえ短時間でキャラクターの全身像を把握していただかねばならない必要性や、コメディの"間"を表現するための演出上の意味、
あるいはCGというツールは、アップショットよりも全身を収めた大きな動きに適しているという技術的な諸問題に起因するものですが、結果的に、3D空間にたたずむ小さな存在としてのキャラクターといった側面が強調されてゆき、アニメ制作が終了する頃には、私自身の中でも、立体化されたドロッセルをこの手で握ってみたいという欲求が生まれていたのです。
【 デザインの開発 ~監督の意思を受けて~ 】
■ キャラクターデザイン
当初はパイロット版の2本分だけの依頼で、メインの2体だけでした。プレゼン用に急ぐという事で、基本のデザインは10日くらいでやっています。
発注の際には年齢設定が無かったので、初稿は"ミッキーマウス"に近い等身で描いていまして、そこで監督から「14歳くらい」という要望をもらいました。
現実の人間の14歳は肉体的には成人と大差ありませんが、ロボットでそのまま再現すると子供に見えませんので、正面側ではグラマラスなラインは避けました。
その代わり、背中の肩甲骨とヒップラインで少し女性的なラインも入れています。また、「少し生意気」という方向性で、多少アクションもあるのだろうと思い、スカートは止めました。
■ オプションパーツ
オプションは毎回、監督から方向性と必要な機能が示されて、
1~2回のやり取りで仕上げました。
コンテの進行に合わせた発注でしたので、オブルチェフの頃はまだコメディの範囲が掴めず、翼が物理的に収まるのか、"カートゥーン"的な理屈抜きのサイズが出てくるノリなのか、確認しましたね。
ただ、映像上収まる構造でも、商品化は視野に無い頃で、翼の厚みなどが極めて薄く、商品設計の方にはご苦労かけたと思います。
個人的なこだわりとして、キャラの統一感のために、毎回必ずツインテールを踏襲する事にしています。ですから、ポニーテール的なオプションは想定していません。ベリンダのリボンの揺れも気に入っています。
■ デザインワーク
やはり(今まで手掛けてきたメカデザインとの)最大の相違点は、女の子をモチーフにしたロボットを本格的にデザインするのは初めてだったということですね。女神的なものは描いた事があったのですが、女の子とは少し違いますから。一方で、拳が大きい事や、足の甲の盛り上がりなどは、普段から好きで続けているパーツ構成ですね。
また、ゲデヒトニスやシャーデンフロイデは、ややレトロな部分もあるロボットですから、昔から好きで描いている方向に近いですね。執事の瞼や小型の腕、煙突や回転灯などは、作中の演技や物語に組み込んでもらえて、提案した甲斐がありました。猿の手足の構造も同様です。椅子も自分好みのラインで纏めています。
【 立体化~超合金 ファイアボール ドロッセル~ 】
■ 商品化の経緯
番組のオンエアが始まって間もない、まだどこからも商品化の話がなかった頃に、「こんな面白いキャラクターがあるんだ!」と注目したことがそもそものきっかけです。
『ファイアボール』のキャラクターは、関節の構造や装備交換などギミック面でも、商品にして欲しいという作り手の意図も伝わってくる作品でした。何よりドロッセルは、これまでのCGアニメやロボットアニメの動きとは異なる魅力的な仕草やポージングがたくさんあり、これらを盛り込んで商品化することには大きな魅力を感じました。
そこから、企画チーム内でのアイディア会議で提案し、ディズニー・ジャパン様とも調整しながら超合金カテゴリーの商品として企画を進めることとなりました。
■ 商品開発
ディズニー・ジャパン様からいただいたアニメーション用の3Dデータを元に、18センチという大きさのフィギュアになった時の見栄えや、マスプロダクツの商品としての落とし込みなどの面で調整を加えて造形されています。
また、メインビジュアルなどで見られる代表的なポーズも再現できるよう、ドロッセルにあわせた新しい関節機構が設計され、金属パーツを使った腕や脚でもポージングができることを目指しました。パッケージやプロモーション用として撮影された写真に関しても、他の商品以上にこだわっています。
■ 超合金ならではの魅力
このシーンもこのポーズも!このシチュエーションの装備も!どれも超合金ならではのカッチリした質感で再現できるところが大きなポイントです。企画着手から時間を掛けましたが、バンダイならではのこだわりを盛り込んだドロッセルの集大成を目指しました。
ぜひ手にとって、その魅力を感じてください。
[ 超合金 ] |
荒川 航 (あらかわ わたる)
映像ディレクター。「ファイアボール」監督。
現在、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社において、テレビ部門のクリエイティブ・ディレクターを務める。本作では、企画、プロデュースから、全エピソードの脚本、絵コンテなど多岐にわたり担当。
福地 仁 (ふくち ひとし)
メカニックデザイナー。1966年生まれ、東京都出身。
ドロッセルのほか、『機動戦士ガンダム00』のユニオンフラッグ、AEUイナクトなど数多のMSデザインを担当。メカニックデザインのほか、プロップデザインなども手掛ける。
(C) Disney