魂の骨格 映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』公開記念インタビュー

映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY EDITION』公開記念インタビュー

『聖闘士星矢』の劇場作品としては10年ぶりの新作となる『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』がいよいよ公開。そして本作で活躍するCGキャラクターを商品化した新ブランド「聖闘士聖衣伝説」も現在進行中である。今回は映画公開を記念して監督のさとう氏をお招きし、『LEGEND of SANCTUARY』のメイキングエピソードや見どころ、そして「聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ」のポイントなどを尋ねてみた。

――まずは現在公開中の劇場作品『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』から話をお聞かせください。CG映像として新生したキャラクター達はどのような経緯で誕生したのでしょう?

初期の段階では、今のようなデザインの他に原作やアニメ寄りのキャラクターデザイン案もありました。でも車田プロさんから「原作のデザインに縛られないでほしい」という意見をもらいました。車田先生としては「最新の表現で作り上げる、まったく新しい星矢」を見たかったのだと思います。もちろん、それは大変な作業ですが、車田先生が背中を押してくださったおかげで、早い段階で方向性を決めることができました。
今回のキャラクターデザインはアニメ的なディフォルメは控えめにしてありますが、原作やアニメの、基本的にウエストは細く、膝下も長めというバランス、その「X」体型は踏襲しようと思いました。リアル過ぎず、ファンタジーでもない、今回の映像に映えるバランスを考えました。
また映像では風になびいた髪が顔を隠すカットをあえて入れています。CGキャラクターの顔に髪がかかることは、その為にモデルを調整する必要があったのですが、アニメでも印象的だった髪のなびきを表現したかったんです。
そして青銅聖闘士各自の個性は、原作を踏まえた上で、さらにチームヒーローとして分かりやすい性格分けをしました。今回の映画は『星矢』に初めて触れるキッズにも観てほしいですからね。特に紫龍は面白いキャラになっています。


――本作のプロットはいかにして固められたのでしょう?

『聖闘士星矢』とは少年達が一人の女の子を守って戦う物語です。その「アテナを守って戦う」という一点は絶対にブレてはいけないと思いました。そこで最初に「自分の力に気付けなかった少女が、仲間と共に未来を切り開く物語」をプロットとして提出したんです。この段階ではかなり長い話だったんです。沙織がなぜ周囲から孤立しているのかを見せる、彼女の学園生活シーンなども用意していましたが、尺は限られているので今回は「沙織が共に聖域を進む」という展開にしました。
沙織の自立を描くには、彼女自身が聖闘士達が倒れる様を目の当たりにしなければいけないと思い、そこで沙織も星矢達と共に、傷つきながらも前へ進んでいくという流れです。

 
聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY

――聖闘士の象徴である聖衣の表現方法についてお聞かせください。

フルCGとは今までのような二次元とは違う「観る人の手に届きそうな」表現です。そのために聖衣は情報量を増やし、クリアパーツなどマテリアルの違いも意識しました。車田先生からも「今までの漫画やアニメでは表現できなかったことをやってほしい」と要望をいただいてました。単に金や銀の鎧を作るのではなく「どう見えるか」という部分にはすごく拘りました。
また聖衣を着た聖闘士がロボットに見えない様、プロポーションや関節の配置には気を付けました。たとえば肩も「撫で肩」でないと人間らしくは見えないんですよ。私が実写のキャラクターをデザインする時も撫で肩をベースにしています。肩が動くときに、ショルダーパーツを上げるか下げるかは最終的な調整で行いました。また玩具の「聖闘士聖衣神話」もプロポーションの参考にしています。あのシリーズのフィギュアは頭が大きく肩幅が狭いけど、聖衣を着るとちょうど良いプロポーションになるんです。以前から「このフィギュアは設計のバランス調整が難しそうだな」と思っていましたが、その大変さは今回の映画で我々も思い知りましたね(笑)。


――「小宇宙」を使った技などのアクションの表現のポイントはどこでしょう?

「小宇宙」をどう表現すれば良いのかはかなり悩みました。アニメ的な表現ではない方向性、かと言って特撮映画とも違うと思いました。他にも『星矢』に影響を受けたような演出の洋画も沢山あります。ただ、それらとはまた違う、『星矢』ならではの表現を模索しました。

さとう・けいいち監督   そこで小宇宙を「物理的」に考えることにしました。目指したのは技の名前を名乗らなくても分かる表現です。映画を既にご覧になった方ならお分かりと思いますが、内なる力が表に出る「幽体離脱」のようなイメージを表現しました。星矢の身体から抜け出た分身が流星になったり、聖衣から発生した気流に乗って彗星になったりします。エフェクトは「もしハリウッドで実写化したら」という想定で考えています。また、これらのアクションが二次元的にならないようにも拘りました。たとえば技が発動するとエフェクトにカメラが追随するカットもあります。

あと小ネタですが、星矢の拳が相手の身体を貫いて壁を壊すシーンがあって、その時の壁に「拳の跡」がしっかり残っているんですよ。少し分かり難いですが注目してほしいところです。漫画的な表現ではありますが、車田イズムに通じる大事な部分ですね! これが実写映画だとしても同じことをやったと思います。他にもフッっ飛ばされた時、頭から落下するところも再現してますよ。


――続いては聖衣のデザインコンセプトについてお聞かせください。

聖衣はデザイン段階から商品化に向けたバンダイとの摺り合わせをしています。担当者からはアニメ版聖衣との違いが一目で分かるデザインを求められました。黄金聖衣に関しては僕と安藤賢司さんとで12体を分担しています。デザインの仕方は従来どおりの二次元的な作業で、お互いにデザインが被らないよう気を遣いつつ、照明が当たることでより映えるディテールを意識しました。
最初に「12人の黄金聖闘士を並べたい」という発想があって、それは最初期のストーリーボードにも描きました。原作の黄金聖闘士は一人づつガチバトルする対戦形式でしたが、この作品では映画ならではの「お祭り感」を大事にしたいと考えたんです。そんな扉絵的なシーンがあれば従来のファンも熱くなれるだろうと。そこで黄金聖衣は並んだ時の格好良さを第一に考えました。
個々を際立たせるためにはまずシルエットの変化。これに加え同じ黄金でも色味に変化を付けることを考えました。タウラスはカッパー(銅)に見えるくらい赤味を強くし、スコーピオンにはピンクゴールドという特殊な色を使っています。そうすることで並んだときの見映えは全く違ってきます。各々のカラーリングは同じ配色にならないようにし、それでいて単体でも青銅よりも格上に見える特別感を心がけました。メッキのような色にはしていません。また黄金聖衣のイメージから「汚し表現」は入れてません。


――黄金聖衣の中でも特に異彩を放つジェミニですが、その配色はどのような発想から生まれたのでしょう?

半身で色が違うのは双子座のイメージから浮かんだ案です。また別の発想として、10体以上のトゲトゲした人達がいる中で、サガだけは他の黄金聖闘士とは全く違った存在感が欲しかったんです。これくらいコントラストが利いたカラーリングならラスボスらしく見えますからね。負の感情が宇宙的思念に囚われてしまったキャラなので、善の感情に切り替わる可能性も色で示すこともできました。
安藤さんの初期案では右半身は銀でした。でも銀は角度によって青銅っぽく見えるので、色としては弱いと思ったんです。そこで照明によってはブラックにも見える藍色にしました。挿し色のグリーンが映える色でもあったので。オッドアイは技術的に難しそうなので最初の案にはなかったんですが、他のキャラとの差別化を徹底的にやりたかったので盛り込みました。
 

――「聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ」の監修で特に注視された部分はどこでしょう?

原型製作には映画用のCGデータを参考にしてもらっています。ただ、こちらが提供したデータは普通に口を閉じた真顔なので、人形っぽい感じではなく表情を感じられるように、後から8割方完成した映像を用意して表情を確認してもらいました。また人の顔はライティングによっては頬が退けて見えるので、輪郭は随分とうるさく言わせてもらいました。フィギュアを飾る時って顎を引く場合が多いと思うんですよ。だから頬が退けていると物足りない絵になってしまうんです。
実は映像の星矢もデザイン画より少し丸顔にしています。少年漫画の元気な主人公のイメージですし、大人との差別化もできますから。今回のサガも顔がシュッとなり過ぎないよう調整しました。また髪もデザイン画より盛っています。

聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ

フィギュア製作に映像用のデータを使うことが100%正しい訳ではないんです。同じデータを使っても映像とフィギュアでは印象が変わってきますからね。今回の監修は身長190cmのサガを20cmに落とし込んだ時の「模型的な見映え」に気を遣いました。あまりディテールを詰め込みすぎると見映えはかえって悪くなるんです。これまで何度もフィギュアのチェックをしましたが、サイズによって監修の仕方はまったく違いますね。

聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ   聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ


――では最後に全国の『聖闘士星矢』ファン、そして聖衣玩具ファンにメッセージをお願いします。

今回のキャスト陣には相当な覚悟があったと思います。20数年も愛されてきたキャラクターに新たな命を吹き込む訳ですからね。それは映像を作る側も同じです。
原作・アニメをリスペクトしつつ、今この時代に提示できる、新しいスタイルの「カッコイイ星矢」を目指して作らせていただきました。
映画を観て頂いた方々、ありがとうございます! まだの方は、『聖闘士星矢』の面白さを再認識できる作品になっています。劇場を出た後はきっと「ペガサス流星拳~!」と叫びたくなるでしょう!
この「聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ」は「少年の心を持った大人が、贅沢な気分になれる商品」というコンセプトで誕生したフィギュアです。これまでの「神話」を買ってきたファンはもちろん、映画で『星矢』を初めて知ったアクションフィギュア好きの人にもお勧めです。映画を観た方ならセブンセンシズが目覚めるほどの完成度です!
 


藤岡ユキオ (ふじおか ゆきお) さとう けいいち

香川県出身。映画監督、デザイナー。
デザイン・コンセプトワーク等を手がけた『THEビッグオー』で高い評価を得て、特撮作品では『百獣戦隊ガオレンジャー』を始め、『忍風戦隊ハリケンジャー』、『爆竜戦隊アバレンジャー』、『非公認戦隊アキバレンジャー』等でデザインを担当。主な監督作品は『鴉 -KARAS-』、『TIGER & BUNNY』、映画『アシュラ』、映画『黒執事』等。
只今、3年振りのオリジナルアニメ『神撃のバハムート GENESIS』監督中!

聖闘士聖衣伝説 ジェミニサガ 聖闘士聖衣伝説
ジェミニサガ


価格:9,504円(税8%込)
発売日:2014年10月発売予定

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